今も、アルゼンチンタンゴ流れて
実際のタンゴの演奏を聴いたのは、遙かなむかし、高校の頃に行った慶応の三田祭でのK・B・Rタンゴアンサンブルのものだけ。ヴァイオリンをやっていた私は憧れの思いをもってステージを見、大学に行ったら絶対にあのようなアンサンブルで、などと思っていた。結局、入学した大学ではそれらしきバンドを見つけることができずに、交響楽団。入学してすぐの5月の大学祭で、今は無い記念館でベートーベンの「運命」、シューベルトの「未完成」などを、一員として弾いていた。クラシックも好きであったし、それはまた別の経験で、思い出深い。 けれども今も、やっぱりアルゼンチンタンゴには、特別な思いがあるのを感じている。高校の頃にgirl friendから借りたタンゴのレコード。例えばその中に入っていたアディオス・パンパーミア(さらば草原よ)。今でも、歌うことができる。ということは、それほどにそのレコードを繰り返し聴いたということだろうか。その他、「ラ・クンパルシータ」をはじめ、「夜明け」「バンドネオンの嘆き」「フェリシア」「たそがれのオルガニート」などタンゴの名曲がみんな入っていたと思う。自身の買った「カナロ・イン・パリ」など、シングル盤のいくつかなども、繰り返し聴いている。銀座の確かヤマハ楽器店だったと思う。そこで買ったミゲル・カロの楽団の12曲入ったLP。エンリケ・フランチー二のヴァイオリン、アルマンド・ポンティエル、ドミンゴ・フェデリコのバンドネオン、歌手のアルベルト・ポデスタ。ラウル・ペロン。それもよく聴いた。今はプレーヤーがないけれども、そのレコードはまだ手元にある。大学でやりたいと思い願っていたことが果たされなかった、ということもあるのかもしれない。タンゴに対する私の郷愁のような感覚は異様に強い。 何年か前、ラジオでタンゴの特集をやった時に、一部をテープにとった。カルロス・デ・サルリ楽団の「バンドネオンの嘆き」、ファン・ダリエンソ楽団の「囚人14号」、他に「ジーラジーラ」「カミニート」など4、5曲。折に触れてもっと聴きたいと思い、近辺のCDショップなどで探してみたりなどしていたのだが、タンゴ、それもアルゼンチンタンゴとなるとごくごく限られてくるような印象で、店に置いていない。皆無に近いようなもの。 そうしたことがあったから、数日前に駅内で出店していたKIOSKのワゴンでアルゼンチンタンゴの3枚組CDを見つけることができたのは、幸運だった。 私が何よりも先ず聴いてみたかったのは、アディオス・パンパーミア。何十年も前に聴いたあの男性歌手ののびやかな忘れがたい声、あの声、あるいはあの声のように歌われた懐かしのその曲。それに、再会したかった。だが、残念ながらそれを歌っていたのは女性歌手で、あの草原の彼方へと向かうようなのびやかさを感じさせるものではなかった。 全部で48曲。限られたものである。例えば私が今もレコードを持っているミゲル・カロのLPの中のものなどは、一曲も入っていない。おそらくは、私の知らない素晴らしい曲が数多くあるものと思う。それらタンゴの曲を、少しでも聴ける機会があればと思う。 これらのCD、私はまたどれほどに繰り返し聴くことになるのか、分からない。聴きながら、色々と考えたりもするのだろうと思う。なぜに、それほどに魅かれるのか。これまでの長い間、音楽と言えばクラシックやロックなど欧米の音楽の方に行っていたようなものだけれども、ここのところに来てのタンゴに対する感覚は、自分のもっと深いところに触れるもの、何故かは分からない。けれども、他のものよりずっと深く触れてくるなにかのあるもの。そうした聴くたのしみを与えてくれる音楽。ヴァイオリンも好き。バンドネオンも良い。思い入れたっぷりの、大人の男性歌手の深みのある歌いぶりにひきこまれる。哀愁を感じさせるメロディ。 むかしの、そのK・B・Rタンゴアンサンブルの演奏の時に、司会者が言った紹介の言葉を思い起こす。「・・・・・ヴァイオリンのすすり泣き・・・・・・・」。 憧れが、ずっと変わらずにつづいているような思いもある。
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コメント
バンドネオンの新米ファンです。
「今も、アルゼンチンタンゴ流れて」を興味深く読ませていただきました。
ブエノスアイレスで旅行者にも気軽に入れると言われているBar SurのHPにEl Choclo (アメリカでKiss of fireというタイトルで歌われたとか)が流れます(ご参考まで)。
日本人のバンドネオン奏者 佐川峯のファンサイトを掲載し、5月4日にご本人作曲の5曲を聴けるようにしました。
サイトをご覧いただければファンとして嬉しいです。
http://minesagawa.web.fc2.com/
投稿 岩田啓作 | 2008年5月11日 (日) 10時44分